米国の特許制度

日本知的財産協会 関西C4Bコース
第3回 (2007年10月9日)

2007.12.20

朝日奈特許事務所  弁理士 朝日奈宗太

第3回目次

7.明細書の構成
(〜 Detailed descriptionの途中まで〜以上第2回〜)

 アメリカ特許法施行規則の改正(2)
H−1 限定の要求(§1.142
H−2 限定の要求(§1.142
H−3 クレーム数の制限とSRRの活用
I−1 分割出願(§1.78(a)(2)
I−2 分割出願(§1.78(a)(2)
J       審査補助書類(ESD)の提出義務の対策

8.明細書の記載要件

          8.1 記載要件
          8.2 実施可能要件
          8.3 ベストモード要件
          8.4 明確性要件
8.5 主題
9.  実施例
10. 米国で話題の制度
     10.1 先行技術開示義務
     10.2 仮出願
     10.3 法定発明登録
     10.4 出願公開制度
     10.5 情報提供
11. 出願後の手続きの流れ
     11.1 方式審査と予備的補正









アメリカ特許法施行規則の改正(2)

H-1 限定の要求(§1.142

出願が2以上の発明に係わるクレームを含む場合には、第1回目の限定の要求 (restriction requirement)
または第1回目のオフィスアクションに先立って、出願人側からSRR
(Suggested Restriction Requirement)
を提案することができる(その提案は5個以内の独立クレームおよび全クレーム数が25個以内となるように
選択するためである)。

H-2 限定の要求(§1.142

審査官がそのSRRに同意をしない場合、審査官はそれとは異なる限定の要求を出すこともでき、
あるいは限定の要求そのものをまったく出さないこともできる。

H-3 クレーム数の制限とSRRの活用

また、出願中に当初よりクレーム数が前記制限(独立クレーム5個以内、全クレーム25個以内)
を超えており、それが出願中に2以上の発明を含むことに起因するなら、
SRR
(Suggested Restriction Requirement)を提案することがすすめられる。
SRRの提案に審査官が同意をし、限定の要求を出してくれれば、その限定の要求にもとづき

取下げられたクレームは、もはやクレーム数の制限対象としてカウントされないからである。

I-1 分割出願(§1.78(a)(2)

分割出願は、限定の要求を受けた場合にのみ可能であり、そのクレームはもとの出願において
選択しなかった
subject matterに向けられたものでなければならない。

 それぞれの分割出願ごとに、継続出願2回およびRCE1回が認められる。限定の要求を受けて
提出されうる分割出願には回数の制限はない。

I-2 分割出願(§1.78(a)(2)

“自発的な”分割出願そのものは、もはや認められなくなる一方で、“自発的な”分割出願が、
もとの出願について2回認められる継続出願の1回目または2回目としてなら可能である。

J 審査補助書類(ESD)提出義務の対策

 ESD (Examination Support Document)の提出義務を免れるためには、不必要なクレームを削除し、
またSRR
(Suggested Restriction Requirement)を提出することを検討すべきである。

 ESDの提出には膨大な資料が要求されるので、出願人にとって手続および費用の負担が大きくなる。
さらに、ESDの要件違反は、のちの訴訟において審査経過禁反言の問題をひき起こしたり、
反衡平行為
(inequitable conduct)の攻撃を受けるおそれがあることに留意すべきである。


7. 明細書の構成

Detailed descriptionRule§1.71(a)
 なお、アメリカ特許又は係属中の許された米国特許出願を引用してその記載を出願明細書の記載の一部となすことが可能である。
外国特許、外国特許出願、特許以外の刊行物を引用して記載の一部とすることはできない(ただし、発明の背景や先行技術の状態を
示す目的でこれらを引用するのは可能)。

Claim or claims
 クレームは、出願人(発明者)が自己の発明であると考える主題をとくに指摘して示すものである。
 アメリカの特許制度のもとでは、周辺限定主義(Peripheral definition system)といって、特許権の権利範囲の解釈にあたり、
その権利範囲はクレームに示される範囲に限られる主義がとられており、ドイツの特許制度にみられるような中心限定主義
(Central definition system)とは対照的である。それだけにクレームの記載にあたっては、多くの注意が必要である。

 なお、アメリカ出願の明細書は一般に他の国のそれよりも完全であり、かつ詳細であることが要求されるため、発明の
あらゆる特徴が充分に記載されていることが必要であって、たとえば成分比、温度、圧力のような数値的要素を含む場合においては
実施可能な範囲、好ましい範囲及び最も適切な値を記載することが望ましい。望ましい結果を得るためにクリティカルな値が存在する
場合にはこの点についても触れる必要がある。

 化学方法の場合には、広いクレームに対する根拠を与えるために若干の実施例を記載しておくことが望ましい。
もし実施例が1つしかない場合には、審査官はクレームを実施例に記載された特定の試薬ならびにパラメータに限定する
ことを要求する可能性が強い。同様に化学組成物の出願の場合においても、適当数の実施例を記載して、構成成分及び
成分比についての種々の変更が可能であることを説明しておくべきである。

 また、微生物を利用する発明の場合には、その微生物がすでに公的機関に寄託され入手し得る状態にあるときを除いて、
明細書中にその菌学的性質を記載すると共に、出願前にその菌株を公的機関(好ましくはアメリカ国内の寄託機関、
たとえばATCCNRRL)に寄託し、明細書にその寄託機関名及び寄託番号を記載しなければならない
Ex parte Argoudelis et al849 O.G. 1237157 USPQ 437In re Argoudelis et al168 USPQ 99)。

Abstract of the disclosure  (Rule§1.72(b))
 明細書に開示される技術内容の簡単なアブストラクトを最後に“Abstract of the disclosure”と頭書きして記載する
ことになっている。

 これは、当業者がそれを見ただけで発明の内容をほぼつかめるように、その技術の方法、装置、製品、
化合物などについて簡単、明瞭に要約したもので、不必要な修飾語や導入節などは一切排除し、通常50100語程度
にまとめるように推奨されている。

 とくに化学の分野においては、開示内容の主題、とりわけ当該発明との関連における主題の効果について言及することが
必要である。

 アブストラクトを設けた理由は、特許商標庁及び公衆がその発明の内容を迅速につかむためであり、該アブストラクトは
明細書中の他の開示のようにクレームの範囲の解釈に用いられることはないとされている。

△目次へ戻る




8.明細書の記載要件



101条
 新規かつ有用なプロセス、機械、生産品、組成物、またはそれらの新規かつ有用な改良を発明ないし発見した者は、
本法に定める条件および要件に従って特許を受けることができる。

112条第1段落
 明細書には、発明及びその発明を製造し使用する仕方(manner)や方法(process)の説明を、その発明の属する
技術分野又は最も近い関係にある技術分野の熟練者なら誰でも同じように製造し、使用することができるように、

充分に明確かつ適切な用語で記載(written description)しなければならない。また、明細書には、発明を成し遂げた
発明者が最良と考える実施態様
を記載しなければならない。

A実施可能要件
@記載要件
Bベストモード要件

112条第2段落
明細書は、出願人が自己の発明であると信ずる主題をとくに指摘して、かつ明確に請求する1以上の請求項
終わらなければならない。

C明確性要件
D主題

△目次へ戻る

8.1 記載要件
 記載要件とは、クレームされた発明が明細書中に充分に記載されていなければならないという要件。
 発明者が出願時にクレームされた発明を発明していたことを明確にすることが目的。
 この要件が満たされているか否かの判断は、出願時の明細書の記載のみに基づいている。
 クレームされた発明と明細書に記載された発明が一致しなければならない。

一致しない例

 クレームで使用した用語は、明細書中で充分に記載(説明)しなければならない。

充分に記載(説明)していない例

 予測可能性の大きい機械や電気などの分野では、記載要件は比較的緩やかであるが、予測困難な化学の分野では
厳しく判断される場合が多い。

 化学の発明の場合は、上位概念下位概念の発明および多くの具体例といったように、充分詳細に記載しておくのが
賢明である。

 例えば、官能性置換基を有する化合物を記載する場合、どのような官能基であるか、またその具体例を充分に記載
すべきである。

 なぜなら、引例を克服するためにクレームにおける広い用語を限定しようとする場合に、その限定は明細書の記載により
サポート
されていなければならない。

数値限定発明
 数値限定の場合も、保護を望む広い範囲と、好ましい結果が得られるより狭い範囲の両方の数値範囲を記載して
おくのが望ましい。

 具体的数値範囲に加えて、「触媒活性量の化合物X」や「医薬的有効量の化合物X」といった機能的表現を用いる
こともできる。

記載要件と新規事項(new matter)の禁止の違い

記載要件
 当初明細書に記載されていない技術主題をクレームすることを禁止

New matter禁止
 クレームされた発明か否かに関わらず、当初明細書に記載されていない事項を後の補正で追加することを禁止


△目次へ戻る

8.2 実施可能要件

実施可能要件とは、
当該技術分野における通常の知識を有する者が発明を
(1)製造し、
(2)使用する
ことができるように記載しなければならないという要件
製法の要件と使用法の要件が含まれている

 製法の要件とは、クレームされている発明をどのようにして製造するかを記載することを要求するもの。

機械の発明の場合
 特殊な材料や手段を用いていない限り、装置の組立や操作方法を説明することだけで実施可能要件を満たしている
とされる。

化学の発明の場合
  製法の要件が厳しく、より詳細な説明が必要である。
  当業者が入手可能な材料を用いて、クレームされている発明を確実に製造できるように記載しなければならない。
  使用法の要件とは、当業者がその発明を使用できるように記載することを要求するもの。使用方法が明確である場合
には、省略してもよい。

機械の発明の場合
 使用方法が明白なので記載しなくてもよい場合が多い。
 記載しなければいけない場合、装置の実用上の用いられ方を記載すればよい。

化学の発明の場合
 クレームされている化合物や組成物が、組成物の調製例や使用量などとともにどのように使用されるか記載する。
 例えば、「本発明の化合物はPVC用可塑剤として有用」と記載したなら、その化合物をPVCに配合し、可塑剤として
の効果を評価する実施例などを記載するとよい。

 一般に予測可能性の大きい機械の発明などに比べると、予測可能性の乏しい化学の発明の場合は詳しい記載が
必要
である。

 実施可能要件の場合、当業者にとって発明の実施が可能か否かが問題であり、明細書の記載のみならず、
当業者の知識も加味して判断される

 したがって、実施可能要件を満たすのに必要な記載の程度は、出願時点における当業者の知識水準や予測可能性
の程度
が大きく関係してくる。

 また、実施可能要件を満たすかどうかの判断はクレームされた発明が基準となるので、クレームが広ければ広いほど
記載しなければならない開示の量は多くなる。

 当該分野における周知事項は、明細書に記載されていなくても、実施可能要件を満たしているとされる。拒絶を受けたら、
外部資料を用いてその旨を証明することができる。

 ただし、出願時において実施可能でなければならず、出願日以後の外部資料を用いて実施可能性を証明することはできない。
 クレームの表現が、明細書が示す実施可能性の範囲より不当に広く、実施不能な部分を含み、いずれが実施可能
であるかを判定するのに当業者が多大の実験をしなければならない
と思われる場合には、実施可能要件を満たしていない
とされる。

 クレームで用いる用語が広い場合には、明細書に中位概念下位概念などをできるだけ詳しく記載し、さらにできるだけ
多くの具体例
を記載しておくのが好ましい。

 実施例は必ずしも要求されず、必要ならば実施可能要件を証明するために出願後に実験データ
Rule§1.132のデクラレーションによって)を提出することもできる。

 しかしながら、実施可能要件を満たすうえで、実施例を記載しておくのが最良の方法である。
必要な実施例の数はクレームの広さによって異なり、クレームされた発明の実施可能性が予測できる程度に
適当数の実施例を記載しておくのが望ましい。

 明細書は、クレームされた発明を当業者が実施できるように記載しなければならない。換言すれば、
当業者にとって発明の再現性、反復性がなければならない

 したがって、発明の再現に重要な影響を及ぼす特定の工程種々の条件については、当業者がその発明を
実施できる程度に充分記載するように注意することが必要である。

特定の工程や種々の条件

・使用する材料や成分
・その使用量
・使用した機械や器具
・反応や処理を行う時間、温度、圧力
・各工程の順番等

  クレームされた発明が、特殊な物質機械あるいは方法を用いなければ実施できない場合、公衆がそれらを
入手できることを保証しなければならない。

  したがって、発明の内容によっては、たとえば原料の入手方法またはその製造方法などの記載が必要である。

 原料の入手方法またはその製造方法
市販の物質、装置である場合、
「○○社製の△△(商品名)」
△△, (trade name) available from○○
というように記載する。
 また、新規化合物や市販されていない物質を使用する場合、その化合物や物質の製造方法も記載しなければならない。

微生物の寄託機関への寄託
 クレームされた発明が微生物の特殊な菌株の使用を必要とする場合には、その菌株を微生物の寄託機関に寄託し、
公衆の誰もがその菌株を入手できることを保証しなければならない。

寄託の対象物
・微生物
・形質転換体
・融合細胞
・動物・植物

寄託機関
・ATCC
・NRRL

 寄託すると、言明書(averment)を提出しなければならない。言明書とは、寄託した微生物が永久に保存されており、
アメリカ特許法により、出願を閲覧し得る者、及び特許付与後は何人にも分譲可能な状態に置かれていることを保証する書類である。

△目次へ戻る

8.3 ベストモード要件
 ベストモード要件とは、発明者が最良と考える実施態様(ベストモード)を記載しなければならないという要件
 ベストモード要件は、発明者が実際に着想した発明について、公衆にとって好ましい態様を秘匿したままで発明者が
特許の保護を受けるのを阻止しよう
とすることを目的としている。すなわち、明細書中に記載された実施態様よりも
優れていると発明者が考えている実施態様が他にある場合には、特許を付与しないとする規定である。

 ベストモード要件は、審査の段階で考慮されることはほとんどなく、侵害訴訟事件において特許無効の攻撃理由
1つとして問題にされるケースがほとんどである。1980年ごろまではベストモード要件はあまり問題にされなかったが、
ベストモード要件違反を無効理由とする事件がしだいに増え、ベストモード要件の重要性について注目されている。

§ 発明者が最良と考える実施の形態
 開示しなければならない実施の形態は、発明者が最良と考えるものであり、発明者の主観的判断に基づく
その後に商業化されたものが他の実施態様であったとしても、また第三者の判断では他の実施態様が最良であったとしても問題にはならない。

c 出願日が基準
 最良の形態とは、出願日の時点で発明者が最良と考えるものである。すなわち、ベストモード要件を満たすか否かの判断は、
出願日を基準とする

 したがって、出願日以降に新しいベストモードが判明してもベストモード要件は満たされている。

c ベストモードと実施例
 ベストモードは実施例(working example)を意味するものではない
 必ずしもベストモードを実施例の形式で記載する必要はない。もちろん、ベストモードを実施例で記載してもよく、
また特定の反応条件が関係してくる方法の発明など、ベストモードを実施例で記載するのが便利な場合が多い。

*ベストモード要件が問題となる場合
 ポリマーBを用いる発明において、ポリマーBの分類に属する特定のポリマーbを用いるときに最良の結果が
得られることを出願前に知っていたが、この特定のポリマーbを明細書に記載していない場合

 反撥弾性が○〜○の範囲にある材料を使用することを特徴とする発明において、A社製の商品名Bで市販されている
反撥弾性XのポリマーCが最良の結果を与えるが、これが明細書に記載されていない場合

a ベストモード要件とフロード
 フロードとは一言で言えばUSPTOをだまして特許をとったということであり、ベストモード要件にかかわるのは、
発明者が自己のベストモードを知っていながら故意にこれを隠して特許を取得する場合
である。

 フロードの問題は、出願の審査手続きにおいてはほとんど発見されないが、訴訟の手続きの中で次第に明らかになっていく
 しかもそのときにはキズのある特許に基づいて第三者の侵害行為を訴追しているのであり、このような場合、相手方から
treble damages
(3倍損害賠償)を請求される恐れをはらんでいるから、とくに注意を払う必要がある。


フロードの成立要件
@事実の不正直な表現
A故意にだますこと
B審査官による信頼および期待の裏切り

具体例A

Q.10〜100℃の温度でのprocessについて出願し、完全な「実施可能な開示」はあった。
 出願後に、出願人は75〜80℃の温度でとくに良好な結果が得られることを発見したが、その範囲は明細書中には
とくに開示されていなかった。

 ベストモード要件に適合させるためにはどのようにすればよいか?

A.ベストモードが出願後に発見されたのであるから、ベストモード要件に適合することは要求されない。

具体例B

Q.10〜100℃の温度でのprocessについて出願し、完全な「実施可能な開示」はあった。
 しかし、出願人は出願前に75〜80℃の温度でとくに良好な結果が得られることを知っていたが、その範囲を明細書中に
開示していなかった場合は?

A.好ましい範囲として開示の中に75〜80℃の温度範囲が含まれていなかったことが致命的な欠陥となる。
 なぜなら、(1)出願人はベストモードを知っていた。そして(2)明細書中に開示することを差し控えたからである。

具体例C

Q.クレームされた発明が「化合物Xを患者に投与することからなる菌の繁殖を抑制する方法」であり、明細書中には
有効性について、「化合物Xは既知の化合物Yに比べて2倍の効果を有する有効な抗菌剤である」とだけ記載されている場合は?

A.有効に作用する特定の菌を当業者は知ることができないから、実施可能要件に適合しないという理由で拒絶される。

△目次へ戻る

8.4 明確性要件

112条第2段落
 明細書は、出願人が自己の発明であると信ずる主題をとくに指摘して、かつ明確に請求する1以上の請求項
終わらなければならない

C主題
D明確性要件

 クレームは発明をとくに指摘しかつ明確に請求するものでなけでばならない。これは、クレームにはあいまい(vague
または不明確(indefinite)な文言を用いてはならない
ことを意味するものと解釈されている。

 この明確性要件の目的は、何が特許侵害になるのかの明確な警告を他の者に与えること、および特許性の判断を容易に
するために出願人が請求する主題の境界を明確に示すことにある。

△目次へ戻る

8.5 主題

 出願人が自己の発明と考える主題についてクレームを作成しなければならない。これは、出願人が自己の発明と思わない
主題を請求してはならない
ことを意味している。
出願人が何を自己の発明と考えているかは、明細書のl記載から、また審査手続中の
書類から明らかにされる。
 従って、クレームが不明確あるいはあいまいであったり、クレームと明細書に不一致がある場合には、§112-Aに基づいて
拒絶される。

△目次へ戻る

9. 実施例

 実施例(とくに working example)は常に明細書に入れておかなければならないというものではない。開示された具体的条件下で
発明が実施されまたは実施され得ることを示すために、化学関係の明細書においては一般に記載されている
が、
機械・電気関係の明細書では記載されない場合が多い。

 実施例には、明細書で記載した要素の好ましい例好ましい範囲または好ましい条件を用いた具体例を1つ以上
入れておくべきである。このような実施例は発明の優れた効果を示すと共に、ベストモード要件を満たすうえで役立つ。

 比較例は非常に有益であり、できる限り記載しておくのがよい。そのような比較例を利用することで所定の臨界的範囲、
要素もしくは条件以外のところで実施しても望ましくない結果しか得られないことを示すことができる。またクレームした発明と
公知技術とを比較してその改良効果ないし優位性を示すための根拠ともすることができる。

 ただし、拒絶を克服するために臨界的意義や公知技術に対する優位性を主張する必要がある場合、比較例が記載されていなくても
§Rule 1.132のデクラレーションの形式でデータを提出することが可能である。

 実施例を記載する場合、各要素、比率ないし条件に関する包括概念、個別概念を支持する充分な数だけ入れておくべきである。
 包括的な記述の裏付けとなる具体的実施例は少なくとも1つ入れておくべきである。とりわけ包括的用語を充分に裏付けるためには
種々の具体例ないし条件を用いた実施例を多数記載するのが望ましい。包括的用語で表現した要素の具体例を、
さらに中位概念的表現を用いていくつかのグループに分類した場合は、各グループについて少なくとも1種の具体例を
用いた実施例を記載しておくのが望ましい。

 さらに実施例にはマーカッシュを構成する各エレメントに根拠を与えることとなるような具体例を含めておくのが好ましい。
 各実施例の結果は、できれば客観的に評価できるように示すべきである。たとえば、単に高収率とするだけでなく、
「収率89%」といったように具体的に数字で表現すべきである。また結果が色調、構造その他の物理的外観など具体的な
数字で表現できない場合でも、その結果は明確な用語で記述しておくのが望ましい。

 実施例の中にペーパー・イグザンプルを含めることができるが、実際になされた研究結果として記載してはならない。
ペーパー・イグザンプルは、予測できる試験結果および予測できる実施例を指すものであるから、過去形を用いて記載してはならない。

 「実施例で使用された●●に代えて、○○を用いても実質的に同じ結果をうることができる」といった表現を実施例の末尾に
挿入することもでき、他の具体例ないし条件を用いても実施例に記載したように実施できるという出願人のはっきりした説明が存在することになる。


△目次へ戻る

10.米国で話題の制度

10.1 先行技術開示義務
 従来、アメリカ特許制度のもとでは、出願人が適切な先行技術の存在を知っていてこれを審査官に開示せず特許を受けたときは、
その特許は反衡平行為(Inequitable Conduct)によって取得されたもの、すなわちUSPTOに対するフロード(Fraud)があったとして
無効原因を有するものとされ、特許の権利行使が認められないとされていた。

 これは,USPTOに対し常に誠実でなければならない(Rule§1.56)とするアメリカ特許制度の理念に基づくものである。

Inequitable Conduct
 一般にUSPTOに対する義務違反および正直さ、誠実さにそむくことを指してCAFCにより好んで用いられる用語である。
 Inequitable Conductなる用語が用いられるのは、Common Law上のFraudと明確に区別するためである。特許を獲得するうえでの
Inequitable Conduct
は、損害を引き起こすことが要件とされていない点でCommon Law上のFraudと区別される。

 アメリカで問題となっている特許事件におけるフロードは、一言でいえばUSPTO(アメリカ特許商標庁)をだまして特許をとったということである。
 密接に関係する先行技術をUSPTOに開示しないといったような、USPTOに詐欺を働いて
Fraud on the Patent and Trademark Office)特許を取得すると、その特許権はのちの侵害訴訟において
行使することができない(unenforceable)と判決される結果となる。

 事情によっては、反トラスト法違反となることもある。
 USPTOに対する詐欺、より一般的にいえばアンクリーン・ハンズの法理は、長年に渡って特許権を行使不能にするために用いられてきた。
 しかし、Walker Process事件(382 US 1721965年))以来、USPTOに対する詐欺の抗弁は、もっと多くの事件において
提起されるようになった。その理由は、詐欺ないしアンクリーン・ハンズが多くなったからではなくて、Walker Process事件が
経済的なインセンティブを与えるようになったからである。

 つまり、詐欺によって取得した特許の侵害訴訟は、Walker Process事件のもとで、特許権が行使不能とされるばかりでなく、
逆に侵害の責任を追及される者が3倍の損害賠償請求をする根拠となるからである。

@ どんな場合にフロードとなるか
(a) 事実の不正直な表現
〔例1〕 発明者の名前のミススペリングは不正直な表現ではあるが、深刻な問題でもないので、フロードにはならない。
〔例2〕 実際にはprior artと差がないのに、500%よいとのAffidavitを提出して得た特許はフロードとなる。

(b) 故意にだます
〔例3〕 実際にはprior artと差がないのに、500%よいとのAffidavithonest mistakeでして得た特許はフロードにならない。
〔例4〕 prior artとの差がないことを知っていてAffidavitを出し、それによって得た特許はフロードとなる。

(c) ミス表現の審査官による信頼,期待の裏切り
〔例5〕 Referenceに対し500%よいとのミス表現をした出願を、Allowanceにした場合、その特許はフロードとなる。
〔例6〕 Referenceが筋違いのものであるなら、500%の優秀さはAllowanceの根拠ではないから、審査官による信頼の問題は
起こらずその特許はフロードにならない。

A 特許出願にあたってフロードにどう対処するか
(a) Full disclosureをすること
 審査官が全ての事実を考慮したのちに特許をissueをしたのならいかなる訴訟に対しても強いからである。
 それではいかなるデータをUSPTOに開示すべきであろうか。
 ある発明者が全く同じ方法について、15の実験をし、そのうち10はよかったが、5つは悪かった場合に、この発明を特許出願
するのにはどうしたらよいであろうか。

 この場合、通常の出願人は10の実験例のみを記載し、5つの悪い例は記載しないかもしれない。
また、5つの悪い実験が何によるか原因が明らかなら、その5つの実験例を排除するような明細書を記載することも考えられよう。

 しかし、その原因が明らかでない場合もしばしばあるわけで、そのような場合にはフロードを避けるために
全部の実験例を記載すべきである。

 とくに全ての実験的事実を記載することはAffidavitの場合には必要である。
 もしアメリカ合衆国で特許の問題が起こり、file wrapperを検討し、Affidavitがある場合にはその内容を詳細に検討するか、
その内容を追試してみれば、フロードを必ず見出し得るとまでいわれている。

 また、InterferenceにおけるAffidavitでも同様である。とくにInterferenceにおけるAffidavitで問題なのは、Rule§1.131によって、
prior artを先取する実験を提出する場合である。つまり、うまくいかなかった実験がある場合に、そのうまくいかなかった実験をも
含めて述べるかどうかの問題である。実験は、通常最初は、うまくいかないとの説明をつけて提出して認められた例もある。

 いずれにしても発明に関する真実を記載し、開示するのが出願人の義務である。

A 特許出願にあたってフロードにどう対処するか
(b) But for rule
〔例7〕 審査官が、出願人の差控えたReferenceを知っていたならAllowanceにしないケースはフロードとなる。

(c) アメリカ代理人との相談
 前述のごときフロードの疑いがあれば、ただちにアメリカ代理人と相談し、訂正すべきである。この場合でも、§135diligency
必要であり、もしdiligencyがないと裁判所において致命的になる恐れがある。

 アメリカで有効な特許を取得するためには、特許性にmaterialに関連した先行技術を示した書面であるIDS
Information Disclosure Statement
を出願時または出願後3ヵ月以内にUSPTOへ提出しなければならない。

IDSに添付するもの
@先行技術のリスト
A先行技術とクレームに記載の発明との関連性についての簡潔な説明文
B先行技術の写し、または、そのうちの少なくとも関連部分の写し(英語以外の言語で作成されているときは、その英訳文)

 提出する先行技術は、クレーム記載の発明と最も関連のあるものである。
 もし、関連する先行技術が必要な限度で開示されていれば、IDSはあえて提出しなくてもよいと考えられている。
 出願時には知らなかった先行技術であっても、特許出願手続きの係属中に関連先行技術の存在に気が付いた場合には、
その都度すみやかにUSPTOへ通知しなければならない。

 このような情報は先行技術に関する補足説明書(Supplemental Information Disclosure Statement)をあらためて作成してもよく、
あるいは、タイミングがあえば、拒絶理由通知に応答して提出する意見書の中に含めて提出してもよい。

IDS提出の時期
 IDSは提出する時期によって、有料の場合と無料の場合がある。
 出願から3ヵ月、または最初のOffice Actionの発送日前(いずれか遅い方)なら無料で提出できる
 また、最初のOA後でも、許可通知もしくはFinal OA発送前であれば、その先行技術を知ってから3ヵ月以内なら無料
提出できる場合がある

 最初のOA後で、許可通知もしくはFinal OA発送前にIDSを提出する場合、その先行技術を知ってから3ヵ月以内であることを
Certification
により陳述するか、料金を納付しなければならない。

 Certificationとは
「その先行技術を知ってから3ヵ月経過していない」という宣誓書のようなもの。

 また、IDSの提出義務は特許発行まで続く。
許可通知後で、Issue Fee納付前に重要な先行技術が見つかり、IDSを提出する場合
Certificationおよび料金の両方が必要である
 ただし、先行技術を知ってから3ヵ月経過していないことが証明できない場合には、RCE(継続審査請求)を請求しなければならない。
 RCEを請求すると、審査が再開される。

留意点
@対応外国出願についてサーチリポートを受け取ったとき、そこで引用された先行技術がmaterial(審査官がallowするか否かの
判断において重要であると考えるもの)である場合は提出しておく必要がある。

ANotice of Allowanceを受け取ったのちにも、先行技術開示義務はある。Issue fee納付前に重要な先行技術情報を開示し
忘れていないか、チェックすべきである。

B先行技術を指摘するだけでなく、その技術文献のコピーも提出しておく必要がある。当該出願にとって適切な(relevant
先行技術である場合は、簡単な説明も付加する。

C出願から3ヵ月または先行技術を知った日から3ヵ月を経過した場合は、先行技術を開示するStatement中には、
開示が遅れた理由を説明しなければならない。

判例
ハリタ事件(6 USPQ 2d 1930, Fed. Cir. 1988
事件
 日本の製薬会社K社は、特定の疫病の治療に有効な化合物にかかわる出願を行なった。
 K社は、審査段階において、重要な先行文献(対応フランス出願においてフランス産業財産権庁が引用した文献)を知っており、
日本側の代理人A弁理士にも相談したが、 A弁理士も情報開示義務について無知であり、前記先行文献を提出しなかった。

 Issueされたのち、情報開示義務を知り、再発行特許出願をして前記先行文献を提出することにより対処した。
 しかしながら、原特許の審査段階での情報開示義務違反を理由として、拒絶査定を受けた。
 K社は、この拒絶査定を不服として審判手続を行なったが、同様の結論の審決となったので、CAFCへ控訴した。
 CAFCでは、原出願の出願後に知った重要な先行文献のUSPTOへの提出を不要であると出願人に誤って助言し、
情報開示義務不履行の原因となった日本側代理人Aの行為がInequitable Conductになるか否かについて判断が求められた。

判断
 審決は取り消された。
 CAFCは、Inequitable conductであるためには、反衡平行為をする意図がなくてはならないことを再確認したうえで、問題の行為は
重大な過失ではあるがInequitable conductではないと判断し、前記審決を取り消した。

 CAFCで拒絶査定が覆った最大の理由は、K社の日本側代理人A弁理士が日本国特許庁審査官、審判官を12年経験しており、
CAFC
でのA弁理士の証言が尊重されたこと、すなわち、USPTOをあざむく Intent(意図)がなかったことにあるとされている。 

 ただし、ハリタ事件は、あくまでも特別な事情が考慮された例とみるべきで、同様の判断が他の事件においても繰り返されることは期待できないであろう。

△目次へ戻る

10.2 仮出願

仮出願(provisional application)
199412月の改正で導入された。
・イギリスで採用されていた制度(provisional specification)に類似する。

必要な書類

明細書及び(必要な場合)図面
カバーシート(発明者、発明の名称、代理人などを記載)

クレームは不要
デクラレーション、IDSも不要

留意点

・英語以外の言語(日本語)でも仮出願できるただし、USPTOの要求により所定期間内に英文を提出しなければならない。
・明細書の3つの要件(発明開示要件、実施可能要件、ベストモード要件)を満たさなければならない。
・優先権を主張して仮出願することはできない。

メリット

・仮出願は1年で取下げたものとされるので、その間に通常の出願(non-provisional application)を行えば、
仮出願の出願日をもとにして特許性が判断されるという利益を享受できる。

存続期間は通常の出願の出願日から起算される。
 アメリカの特許権は、出願日から20年で満了する。しかし、パリ条約の優先権を主張して出願する外国人は、
現実のアメリカ出願より早い出願日の利益を受けるにもかかわらず、存続期間は現実のアメリカ出願日を基準とする。



 これではアメリカ人にとって不利であるとの理由から、優先権と同等の利益を受けることができる仮出願を認めることとした。


△目次へ戻る

10.3 法定発明登録

法定発明登録
1984118日に追加。
・従来の防衛公告に代わる制度。

対象
通常の明細書および図面からなる特許出願

必要な要件

112条の要件を満足すること
・印刷のための方式要件を満足すること
特許を受ける権利を放棄すること
出願その他の手続の手数料を納付すること

留意点

・防衛公告では、単なる公開に過ぎず、公告されてはじめて102条の判断資料とされ、また先発明の対象とはならなかった。
法定発明登録では、公告されなくても102条の判断資料とされて先発明の対象となり、独占排他権以外はすべて認められる。

△目次へ戻る

10.4 出願公開制度

 原則として、米国出願後18ヵ月で公開され、また出願人の請求によっては18ヵ月以内に公開される早期公開制度が導入された(§122)。
公開の形式は、ウェブサイト上での電子公開のみである。

例外
@意匠特許出願および仮出願は対象外
A米国にしか出願しない場合には、その米国出願を非公開にすることを請求可
「サブマリン特許」の問題も残る。

非公開請求の留意点

・出願時にしなければならない。
その後、もし外国出願をした場合、45日以内にUSPTOに通知しなければ米国出願は放棄とされる。

例外的な公開

旧出願の自発的公開2000年11月29日以前の出願は請求により公開され、仮保護の権利が得られる)
早期公開(出願人の申請がある場合、出願日から18ヵ月経過前に出願が公開される)
・再公開(公開後、侵害被疑製品をカバーするようにクレームを補正し、再度公開することによって仮保護の権利の内容を改善する)

出願公開の効果
@警告などの一定要件のもと、公開日から特許発行日までの間に、その発明を米国内で実施した者に対して実施料相当額の
請求を行うことができる(仮保護の権利(provisional right)( §154 )。

Aある出願人の発明日より前に、他人が米国に出願し公開された発明については、§102(e)の先行技術の地位が生じる。
 ただし、PCT出願の場合には、英語で公開されたものであることが条件とされる。

△目次へ戻る

10.5 情報提供

 公開された出願に対して何人も情報提供をすることができる。情報提供の資料としては、特許文献または刊行物に限られており、
公知や公用の事実を提出することはできない(特許文献または刊行物の個数は10以内という制限がある)。

 また、情報提供の際には、いかなる説明や見解も提示することはできない。
 情報提供の期限は、出願公開から2ヵ月以内、または特許付与通知の発送日のいずれか早い日までである。

△目次へ戻る

11. 出願後の手続きの流れ

△目次へ戻る

11.1 方式審査と予備的補正

 最初に出願書類を、方式について審査する。
 もしUSPTOの定める方式に違反していれば、その旨が出願人に通知される。
 この通知から6ヵ月以内にその方式欠缺の訂正をしなければ、出願は放棄されたものとされる。
 一方、方式に適合すると認められれば、出願番号が付され、出願番号(Serial No.)および出願日を出願人に通知する。
 優先権の期限が迫っているなどの理由で、たとえば形式上の不備が訂正できていない場合には、出願人は、出願日から
3ヵ月以内に、明細書の形式上の不備を訂正したプリリミナリー・アメンドメント(Preliminary Amendmentを提出することが好ましい。

 プリリミナリー・アメンドメントの提出によって、First Office Actionが直接発明内容に向けられることになり、単なる形式的不備を指摘するだけのOffice Actionを避けることができる。


△目次へ戻る