|
米国の特許制度 |
2007.12.20
第2回 目次
4.日本国特許明細書と米国特許明細書
(以上第1回)
前回質問と回答
米国特許施行規則の改正
5.明細書作成の手順と考え方
6.クレームの記載
6.1 クレームの構成
6.2 クレームの型
6.3 独立クレーム・従属クレーム
7.明細書の構成
8.明細書の記載要件
8.1 記載要件
8.2 実施可能要件
前回(8月20日)にご質問のあった「アメリカ特許法の改正でサーチレポートの義務化が法案に
でていますが、成立するのでしょうか?」については、今までの情報では改正法案には
「サーチレポートの義務化」は具体的には出ていないようです。むしろ、つぎに述べる
アメリカ特許法施行規則の改正点@審査補助書類の提出義務がこれに関連するように思われます。
アメリカ特許法施行規則の改正
アメリカ特許商標庁は新しい施行規則を2007年8月21日に公表し、
2007年11月1日から施行すると発表した。
新しい施行規則の概要はつぎのとおりである。
@審査補助書類(Examination Support Document)の提出義務(1.75(b)(1))
(1)概要
・出願中の独立クレームが5項をこえる場合、または全クレーム数が25項を
こえる場合は、審査補助書類を最初のオフィス・アクションの発送までに提出しなければならない。
・審査補助書類が最初のオフィス・アクションの発行までにされなかった場合、
前記クレーム数の制限を超えてクレームを追加することはできなくなる。
(2)改正の目的:
この規則改正は、アメリカ特許商標庁における審査の滞貨を低減し、
出願全体の審査期間を短縮することを目的としている。
審査補助書類を提出する場合は、出願人自ら調査を行ない、
各独立クレームの特許性について詳述する必要があるなど、出願人にとって
多大な負担となることが予想される。
その結果、出願人は通常クレーム数を全体で25項以内、独立クレームを5項以内に
抑えることになると期待されている。
(3)独立クレームの定義(§1.75(b)(2))
つぎのようなクレームは、独立クレームとして取扱われる。
@他のクレームを引用するが、被引用クレームの限定のすべてを構成要件としないクレームは、
独立クレームとして取扱われる。
A異なるカテゴリのクレームを引用するクレームは独立クレームとして取扱われる。
(4)複数の出願におけるクレーム数(§1.75(b)(4))
複数の出願において、@たがいに少なくとも1つの patentably indistinctなクレームを含む場合であって、
出願人(applicant)または譲受人(assignee)が同一であれば、いずれの出願についても、
他の出願のすべてのクレームをも同時に含むものとして、クレームの数が算定され、
審査補助書類の提出義務が判断されることになる。
たとえば、出願A(独立クレーム3、全クレーム20)、出願B(独立クレーム3、全クレーム20)
のとき、たがいに ptaentably indistinctなクレームを有していれば、出願A、B両方ともが、
それぞれ独立クレーム6、全クレーム40を有すると取扱われる。
この場合、A、Bいずれかの出願から、patentably indistinctなクレームを削除する補正を行うことになろう。
(5)その他のクレーム数の算入
・限定要求(restriction
requirement)で選択されなかったクレームは、前記クレーム数制限については、
算入されない(§1.75(b)(5))。
・多数項従属クレームは、引用するクレーム数に相当する数のクレームとして算入される(§1.75(c))。
(6)審査補助書類
・提出しなければならない審査補助書類としてはつぎのようなものがある(§1.265(a))。
(i)審査前に先行技術調査を実施したという出願人によるstatement
(ii)関連する先行技術リストおよび当該先行技術のコピー(入手可能なら翻訳も)
(iii)先行技術にもとづきクレームを限定する根拠となった箇所の特定
(iv)先行技術に対する各独立クレームの特許性の説明
(v )各クレームの構成要素についての明細書中のサポート箇所
(優先権を主張している場合は、優先権をサポートする箇所)
(この点は実質的に優先権証明書の翻訳が必要となるおそれがある)
・審査補助書類が提出されたが、前記要件に違反する場合は、補正指令が出される。
出願人は2ヵ月以内に補正をしなければならない(§1.265(e))。
(7)審査補助書類とIDSとの関係(§1.265(d))
審査補助書類を提出している出願について、 IDSを提出する場合には、
当該IDSの提出文献についても、前記(iii)先行技術にもとづきクレームを限定する
根拠となった箇所の特定、および(iv)先行技術に対する各独立クレームの特許性の説明を記載しなければならない。
ただし、IDSの提出文献の関連性が低い場合は、(iii)および(iv)の記載は必要とされない。
(8)審査補助書類の提出が適用される出願
改正規則の施行日は2007年11月1日であるが、
この日より前に出願されて、第1回目のオフィス・アクションを受けていないものにも
適用される。同日において審査係属中の出願については特許庁はNoticeを発行し、
審査補助書類の提出によって、クレーム数を削減する機会を与えるようである。
また同日付で審査係属中の特許出願においてオフィス・アクションを受けてクレームの
補正をするときは、新規則下のクレーム数の制限(クレーム数25項以内、独立クレーム数5項以内)
にする必要がある。
したがって、現在審査係属中のアメリカ出願において多数のクレームがあるものに関しては、
クレーム数を削減する必要性が生じる可能性がある。
A優先権主張(§1.78)
仮出願または通常出願(意匠特許を除く)を国内優先権の基礎として、特許出願または
アメリカを指定する国際出願をすることができる。
基礎出願が仮出願である場合、仮出願から12ヵ月以内に通常出願または
アメリカを指定する国際出願をしなければならない、と明記された。
B出願データシートにおける国内優先権情報(§1.76(b)(5))
出願データシートに記載すべき国内優先権に関する情報は、国内優先権を主張する
国内出願またはPCT出願についての出願番号および出願日である。これらの情報は
出願データシートに記載すれば、明細書中に記載する必要はない。
C審査の性質(§1.104)
審査は、出願の適法性、方式要件およびクレーム発明の特許性について行われる。
審査官はこれらのすべての要件について審査を行わなければならないが、発明の不適当な
併合や明細書に根本的な欠陥がある場合はこれらの問題についてのみ審査を限定してもよい。
D個々のクレームの主題の発明者および発明日(§1.110)
複数の発明者が記載されているときは、特許商標庁は、必要に応じて、
個々のクレームごとの発明者を特定するように要求できる。また個々のクレームごとの
発明日および発明者についても特定するように要求できる。
E継続審査(RCE)(§1.114)
(1)規則改正の目的
特許庁における審査の滞貨を低減し、特許出願の審査期間を短縮する。
無制限な継続審査を適切に制限する。これにより、オフィス・アクションへの出願人の
対応(クレームの補正および意見書)がより充実したものとなることが期待される。
(2)概要
RCEには、審査が終了する前に補正や意見書が提出できなかった旨を述べた
petitionを添付する必要がある(§1.114(g))。
以下の(1)〜(3)のいずれかに該当する場合にはpetitionの提出は不要である。
(i)本願、本願の親出願および本願の子出願のいずれについてもRCEが請求されていないこと。
(ii)本願分割出願および本願分割出願の子出願のいずれについてもRCEが請求されていないこと。
(iii)本願継続出願、当該分割出願および当該分割出願の子出願のいずれについてもRCEが請求されていないこと。
(3)改正規則の適用
RCEの制限は、2007年11月1日現在で審査係属中の特許出願であって、
同日以降にRCEをするものに適用される。
すなわち、11月1日以前にすでに1回以上のRCEを実施している出願の場合には、
規則1.114(g)に基づくPetitionの提出なしにはさらなるRCEを(施行日以降には)することができない。
現在審査係属中の特許出願においてRCEは1回に制限されることになる。
したがって、今後は1回目のオフィス・アクションへの対応をより充実させることが重要になる。
重要出願に関しては第1回目のオフィス・アクションでインタビューを実施したり、
ファイナル・アクションに対してはアピールを請求することなどを今までより積極的に検討する必要があると思われる。
F継続出願(CA)(§1.78)
(1)規則改正の目的
特許商標庁における審査の滞貨を低減し、特許出願の審査期間を短縮する。
無制限な継続出願を適切に制限する。これにより、オフィス・アクションへの出願人の対応
(クレームの補正および意見書)がより充実したものとなることが期待される。
(2)概要
原則として、継続出願(CA)は2回までに制限される。3回目以降の継続出願は
petitionを添付する必要がある(§1.78(d))
(3)改正規則の適用
継続出願の制限は、2007年11月1日現在で審査係属中の特許出願であって、
同日以降に継続出願をするものに適用される。
ただし、2007年8月21日以前の特許出願に関しては、過去の継続出願の回数に
かかわらず、2007年8月21日以降に継続出願をさらに1回することが認められている。
Gクレームのキャンセルによる費用返還(§1.117)
審査の開始前の補正によりクレームをキャンセルしたときは、
補正から2ヵ月以内であれば、過払いのクレーム費用について返還を請求することができる。
H限定の要求(§1.142)
最初のオフィスアクションまたは限定(Restriction)の要求の前に、
出願人からRestrictionを提案することができる。その提案は5個以内の独立クレーム
および全クレーム数が25個以内となるように選択しなければならない。
101条で要求される有用性の点から用途を、112条の使用法の要件からその実施方法を記載しておく。
発明が特許によって保護されるためには、クレームによってカバーされていなければならず、クレームに
カバーされていない発明は保護されない。Markman v. Westview Instruments Inc.,(34
USPQ2d 1321, Fed. Cir., 1995)
112条第2段落
明細書は、出願人が自己の発明であると信ずる主題をとくに指摘して、かつ明確に請求する1以上の請求項で終わらなければならない。
D主題
C明確性要件
クレームは、前文(preamble)+接続部(transition)+本文(body)で構成されている。
What is Claimed is:
1. A process for preparing a synthetic rubberwhich comprises … .
(前文 preamble)
クレームすべき対象を記載した導入部である。
前文には、クレームすべき対象を正確に記載し、不要な記載や、限定を含めない。
例えば...
A process for preparing a synthetic
rubber comprising…
A cleaning composition comprising ...
(接続部 transition)
接続語には、
@comprising (which comprises)
Aconsisting of
の典型的な型がある。
それぞれ、クレーム解釈における意味が異なる。
comprisingまたはwhich comprises
この表現は、非限定的用語であり、開放クレーム(open
claim)を構成する。
すなわち...
クレームの「本文」に記載した構成要件はクレームされている製品や方法などの本質的部分であり、他のいかなる要素あるいは工程も含みうる。
一方、consisting ofは制限的用語で、閉鎖クレーム(closed claim)を構成する。
すなわち、クレームの「本文」に記載した構成要件のみがクレームされており、それ以外の要素は含まれない。
違い
オープンターミノロジーと
クローズターミノロジー
(本文 body)
クレームすべき主題の各要素を記載する。
・各構成要件を列挙。
・構成要件の相互関係を明確に。
6.2 クレームの型
・Markush claim
・Jepson claim
・Finger printing claim
An insecticidal composition comprising … .
A pyridine derivative of the formula … .
product claim
その製品が新規かつ有用で、その製品自体に特許性がある場合、product
claimは許される。
公知のものと類似している場合、公知のものと比べて優れた効果、異なる効果がなければならない。
A process for preparing a compound of the general formula … comprising … .
A method of combatting insecticide-resistant insects which comprises … .
process claim
方法、または既知方法の新規な用途(new use)が含まれる。
例えば:
・化合物の製造方法
・化合物を用いる殺虫方法
Process claimが認められるには、方法自体が新規でなければならない。
したがって、方法の結果物が新規で特許性があっても、クレームされた方法も許されるとは限らない。
逆に、結果物が新規でなくても、方法が新規であれば、許可される。
The herein described
hop liquid product
obtained by subjecting a mixture of fresh cured hops
and liquid in a hermetically sealed container to a temperature sufficient
to extract all the essential oils, essences,
aromas from the hops and disseminate same through the liquid.
生成物が新規性、非自明性を有するものであれば、製法が不明確とされないことを条件として、
product-by-process claimとして生成物の特許権を取得することができる。
また、ある要素については通常の用語で定義し、他の要素を製法で定義した混合型クレームも認められる。
product-by-process claimは、生成物が製法によらないと、はっきり説明できない錯体のような場合、
または公知のものと比べて特定の方法によった場合に予測し得ない結果が得られる場合などに、とくに有用である。
しかし、product-by-process claimでは、その方法によって得られた物だけでなく、他の方法によって得られた物にも
効力が及ぶ、こともある。
Factor VIII: C事件(18USPQ2d 1001, CAFC 1991)
事件
血液由来のFactor VIII: Cに関する特許を有するScripps Clinic Research Foundation が、遺伝子組換え
Factor
VIII: Cを研究しているGenentech Inc. を特許権侵害で訴えた。
この特許ではproduct-by-process claimで記載されていた。
判断
カリフォルニア地裁
product-by-process claimでは、クレーム記載の方法と同一の方法によって製造されたものに限り、
あるいは他の方法によってはその物質が製造され得ないことが証明された場合に限り、侵害となる。
被告は控訴した。
CAFC
特許性の判断において、物質は製法に限定されることなく解釈されている。したがって、クレームは、
その有効性と侵害について同じように解釈されなければならない。
しかし、product-by-processの正しい解釈は、クレームに記載された製法で得られる物質に限定されるものではないと判示した。
An apparatus for coating materials comprising … .
apparatus claim
装置自体が新規な場合、このクレームの型が用いられる。
装置自体が公知の場合、方法クレームによって、新規な用途をクレームする。
In an aircraft propelled by a jet engine, means for controlling the speed of flight … .
112条第6段
組み合わせ(combination)に関する請求項中の要素(element)は、その構造(structure)、材料(material)または
これを裏付ける作用(acts)を詳述することなく、特定の機能を達成する手段(means)または工程(step)として記載することができる。
means plus function claimは、明細書に記載されたそれと対応する構造、材料または作用およびそれらの均等物を含むものとして解釈される。
機能的に表現した手段の具体例をできるだけ広くかつ多く記載することが、それだけクレ−ムの文言上の範囲が広がるので、権利保護の面から有利である。
クレーム:・・・ means for cutting …
本文: knife, cutter などを記載
記載しなかった“scissors”(ハサミ)は、均等物(equivalents)ではなく、均等論(doctrine of equivalent)の問題と考えられる。
… material selected from the group consisting of aniline, homologues of aniline, and halogen substitution product of aniline … .
マーカッシュクレームは、化学関係の発明において、しばしば用いられるクレームの型である。
用いられる物質が複数個あって、しかもそれらを総括的に表現する用語がないときに、「A、BおよびCよりなる
群から選ばれたメンバー(a member selected from the group consisting of A, B and C)」という表現が用いられる。
Markush claimが許されるためには、そのMarkush groupの各メンバーが、互いに密接した類似関係にあることが必要である。
具体的には…
@広く認められている物理的または化学的分類に属するか、またはその技術分野で認められた分類に属すること、あるいは、
Aクレームされた関係において、それらの機能を果たすための少なくとも1つの共通した性質を有していること。
In an apparatus including a drive means A, a saw means B, a turning means C,
a drill means D and a milling means E; the improvement wherein drive means A is
modified to … .
Jepson 事件(Ex parte Jepson, 1917 C.
D. 62)
その発明の構成を示すために必要な特徴の一部が公知である場合に、そのような公知部分をクレームの本体(body)
に入れることは、長い間、疑問とされていた。
Jepson事件において、公知の要素を前文(preamble)に入れ、新たな部分を本体に書いて組合わせることによりクレームされ、特許された。
たとえば、
Jepsonクレーム
In a chair including a seat and legs;
the improvement wherein the chair is provided with a back.
アメリカ出願の通常のクレーム
A chair comprising a seat, legs and a back.
Finger printing claim
化学物質の構造が不明であるが、特性によってその物質を他の物質と充分に区分できる場合、物質を化学的、物理的性質だけで定義することができる。
物質を固有の性質(=指紋)で定義することから、 Finger
printing claimと呼ばれる。
6.3 独立クレーム・従属クレーム
Independent Claim
and
Dependent Claim
クレームは、他のクレームに依存しない独立の形でクレームしてもよく、他のクレームを引用して、
その引用されたクレームを限定した形の従属クレームにすることも可能である。(§112-B)
従属クレーム
7. A biaxially-orientated film of
modified polyethylene-2,6-naphthalate according to Claim 1, wherein ….
または
7. The biaxially-orientated film
of modified polyethylene-2,6-naphthalate of Claim 1, wherein … .
独立クレーム
独立クレームは、他のクレームを引用せず、そのクレームだけで完結したクレームで、発明の構成要件を限定するクレーム。
従属クレーム
従属クレームはメインクレームのすべての限定要素に拘束される(§112-C)。
従属クレームは、クレーム内に他のクレームを引用しており、引用されたクレームの構成要件に新たな構成要件を付加するものである。
多項従属クレーム
複数クレームに従属するクレーム(複合従属クレームまたはマルチクレームと呼ばれる)を後の複合従属クレームの基礎としてはならない(§112-D)。
Detailed description(Rule§1.71(a))
なお、アメリカ特許又は係属中の許された米国特許出願を引用してその記載を出願明細書の記載の一部となす
ことが可能である。外国特許、外国特許出願、特許以外の刊行物を引用して記載の一部とすることはできない
(ただし、発明の背景や先行技術の状態を示す目的でこれらを引用するのは可能)。
Claim or claims
クレームは、出願人(発明者)が自己の発明であると考える主題をとくに指摘して示すものである。
アメリカの特許制度のもとでは、周辺限定主義(Peripheral definition system)といって、特許権の権利範囲の解釈にあたり、
その権利範囲はクレームに示される範囲に限られる主義がとられており、ドイツの特許制度にみられるような
中心限定主義(Central definition system)とは対照的である。それだけにクレームの記載にあたっては、多くの注意が必要である。
なお、アメリカ出願の明細書は一般に他の国のそれよりも完全であり、かつ詳細であることが要求されるため、
発明のあらゆる特徴が充分に記載されていることが必要であって、たとえば成分比、温度、圧力のような数値的要素を
含む場合においては実施可能な範囲、好ましい範囲及び最も適切な値を記載することが望ましい。望ましい結果を
得るためにクリティカルな値が存在する場合にはこの点についても触れる必要がある。
化学方法の場合には、広いクレームに対する根拠を与えるために若干の実施例を記載しておくことが望ましい。
もし実施例が1つしかない場合には、審査官はクレームを実施例に記載された特定の試薬ならびにパラメータに限定する
ことを要求する可能性が強い。同様に化学組成物の出願の場合においても、適当数の実施例を記載して、
構成成分及び成分比についての種々の変更が可能であることを説明しておくべきである。
また、微生物を利用する発明の場合には、その微生物がすでに公的機関に寄託され入手し得る状態にあるときを除いて、
明細書中にその菌学的性質を記載すると共に、出願前にその菌株を公的機関(好ましくはアメリカ国内の寄託機関、
たとえばATCC,NRRL)に寄託し、明細書にその寄託機関名及び寄託番号を記載しなければならない
(Ex parte Argoudelis et al;849 O.G. 1237,157 USPQ 437,In re Argoudelis et al;168 USPQ 99)。
Abstract of the disclosure (Rule§1.72(b))
明細書に開示される技術内容の簡単なアブストラクトを最後に“Abstract of the disclosure”と頭書きして記載することになっている。
これは、当業者がそれを見ただけで発明の内容をほぼつかめるように、その技術の方法、装置、製品、化合物などについて簡単、
明瞭に要約したもので、不必要な修飾語や導入節などは一切排除し、通常50〜100語程度にまとめるように推奨されている。
とくに化学の分野においては、開示内容の主題、とりわけ当該発明との関連における主題の効果について言及することが必要である。
アブストラクトを設けた理由は、特許商標庁及び公衆がその発明の内容を迅速につかむためであり、該アブストラクトは明細書中の
他の開示のようにクレームの範囲の解釈に用いられることはないとされている。
101条
新規かつ有用なプロセス、機械、生産品、組成物、またはそれらの新規かつ有用な改良を発明ないし発見した者は、
本法に定める条件および要件に従って特許を受けることができる。
112条第1段落
明細書には、発明及びその発明を製造し使用する仕方(manner)や方法(process)の説明を、
その発明の属する技術分野又は最も近い関係にある技術分野の熟練者なら誰でも同じように製造し、
使用することができるように、充分に明確かつ適切な用語で記載(written description)しなければならない。
また、明細書には、発明を成し遂げた発明者が最良と考える実施態様を記載しなければならない。
A実施可能要件
@記載要件
Bベストモード要件
112条第2段落
明細書は、出願人が自己の発明であると信ずる主題をとくに指摘して、かつ明確に請求する1以上の請求項
で終わらなければならない。
C明確性要件
D主題
8.1 記載要件
記載要件とは、クレームされた発明が明細書中に充分に記載されていなければならないという要件。
発明者が出願時にクレームされた発明を発明していたことを明確にすることが目的。
この要件が満たされているか否かの判断は、出願時の明細書の記載のみに基づいている。
クレームされた発明と明細書に記載された発明が一致しなければならない。
一致しない例
クレーム 明細書
A,Bからなる組成物 → A、B、Cからなる組成物Cを使用しなくてよいことが記載されていない
クレーム 明細書
A、B、C、Dからなる組成物 → A、B,Cからなる組成物Dをさらに使用してもよいことが記載されていない
クレームで使用した用語は、明細書中で充分に記載(説明)しなければならない。
充分に記載(説明)していない例
クレーム 明細書
アルキル置換基を有する化合物 → メチル置換基を有する化合物
メチル基以外の化合物についても開示が必要
メチル基以外の化合物についても開示が必要
予測可能性の大きい機械や電気などの分野では、記載要件は比較的緩やかであるが、予測困難な化学の分野では厳しく判断される場合が多い。
化学の発明の場合は、上位概念、下位概念の発明および多くの具体例といったように、充分詳細に記載しておくのが賢明である。
例えば、官能性置換基を有する化合物を記載する場合、どのような官能基であるか、またその具体例を充分に記載すべきである。
なぜなら、引例を克服するためにクレームにおける広い用語を限定しようとする場合に、その限定は明細書の記載によりサポートされていなければならない
数値限定発明
数値限定の場合も、保護を望む広い範囲と、好ましい結果が得られるより狭い範囲の両方の数値範囲を記載しておくのが望ましい。
具体的数値範囲に加えて、「触媒活性量の化合物X」や「医薬的有効量の化合物X」といった機能的表現を用いることもできる。
記載要件と新規事項(new matter)の禁止の違い
記載要件
当初明細書に記載されていない技術主題をクレームすることを禁止
New matter禁止
クレームされた発明か否かに関わらず、当初明細書に記載されていない事項を後の補正で追加することを禁止
8.2 実施可能要件
実施可能要件とは、
当該技術分野における通常の知識を有する者が発明を
(1)製造し、
(2)使用する
ことができるように記載しなければならないという要件
製法の要件と使用法の要件が含まれている
製法の要件とは、クレームされている発明をどのようにして製造するかを記載することを要求するもの。
機械の発明の場合
特殊な材料や手段を用いていない限り、装置の組立や操作方法を説明することだけで実施可能要件を満たしているとされる。
化学の発明の場合
製法の要件が厳しく、より詳細な説明が必要である。
当業者が入手可能な材料を用いて、クレームされている発明を確実に製造できるように記載しなければならない。
使用法の要件とは、当業者がその発明を使用できるように記載することを要求するもの。使用方法が明確である場合には、省略してもよい。
機械の発明の場合
使用方法が明白なので記載しなくてもよい場合が多い。
記載しなければいけない場合、装置の実用上の用いられ方を記載すればよい。
化学の発明の場合
クレームされている化合物や組成物が、組成物の調製例や使用量などとともにどのように使用されるか記載する。
例えば、「本発明の化合物はPVC用可塑剤として有用」と記載したなら、その化合物をPVCに配合し、可塑剤としての効果を評価する実施例などを記載するとよい。
一般に予測可能性の大きい機械の発明などに比べると、予測可能性の乏しい化学の発明の場合は詳しい記載が必要である。
実施可能要件の場合、当業者にとって発明の実施が可能か否かが問題であり、明細書の記載のみならず、当業者の知識も加味して判断される。
したがって、実施可能要件を満たすのに必要な記載の程度は、出願時点における当業者の知識水準や予測可能性の程度が大きく関係してくる。
また、実施可能要件を満たすかどうかの判断はクレームされた発明が基準となるので、クレームが広ければ広いほど記載しなければならない開示の量は多くなる。
当該分野における周知事項は、明細書に記載されていなくても、実施可能要件を満たしているとされる。拒絶を受けたら、外部資料を用いてその旨を証明することができる。
ただし、出願時において実施可能でなければならず、出願日以後の外部資料を用いて実施可能性を証明することはできない。
クレームの表現が、明細書が示す実施可能性の範囲より不当に広く、実施不能な部分を含み、いずれが実施可能であるかを
判定するのに当業者が多大の実験をしなければならないと思われる場合には、実施可能要件を満たしていないとされる。
クレームで用いる用語が広い場合には、明細書に中位概念、下位概念などをできるだけ詳しく記載し、さらにできるだけ
多くの具体例を記載しておくのが好ましい。
実施例は必ずしも要求されず、必要ならば実施可能要件を証明するために出願後に実験データ(Rule§1.132のデクラレーションによって)
を提出することもできる。
しかしながら、実施可能要件を満たすうえで、実施例を記載しておくのが最良の方法である。必要な実施例の数は
クレームの広さによって異なり、クレームされた発明の実施可能性が予測できる程度に適当数の実施例を記載しておくのが望ましい。
明細書は、クレームされた発明を当業者が実施できるように記載しなければならない。換言すれば、当業者にとって発明の再現性、反復性がなければならない。
したがって、発明の再現に重要な影響を及ぼす特定の工程や種々の条件については、当業者がその発明を実施できる程度に充分記載するように注意することが必要である。
特定の工程や種々の条件
・使用する材料や成分
・その使用量
・使用した機械や器具
・反応や処理を行う時間、温度、圧力
・各工程の順番等
クレームされた発明が、特殊な物質、機械あるいは方法を用いなければ実施できない場合、公衆がそれらを入手できることを保証しなければならない。
したがって、発明の内容によっては、たとえば原料の入手方法またはその製造方法などの記載が必要である。
原料の入手方法またはその製造方法
市販の物質、装置である場合、
「○○社製の△△(商品名)」
△△, (trade
name) available from○○
というように記載する。
また、新規化合物や市販されていない物質を使用する場合、その化合物や物質の製造方法も記載しなければならない。
微生物の寄託機関への寄託
クレームされた発明が微生物の特殊な菌株の使用を必要とする場合には、その菌株を微生物の寄託機関に寄託し、
公衆の誰もがその菌株を入手できることを保証しなければならない。
寄託の対象物
・微生物
・形質転換体
・融合細胞
・動物・植物
寄託機関
・ATCC
・NRRL
寄託すると、言明書(averment)を提出しなければならない。言明書とは、寄託した微生物が永久に保存されており、
アメリカ特許法により、出願を閲覧し得る者、及び特許付与後は何人にも分譲可能な状態に置かれていることを保証する書類である。